弁護士が教える司法試験受験後、合格発表までの過ごし方

2021/05/24

司法修習

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 こんにちは。弁護士の谷直樹です。

このブログでは司法試験を受験・合格した経験をふまえて無理せず合格するための司法試験の勉強への取り組み方をまとめています。

2021年(令和3年)の司法試験が5月12日~16日に実施されました。今年受験をされた方はとにもかくにも試験を終えてほっと一息ついていることと思います。

受験直前は最後の追い込みのために勉強時間も多かったかもしれませんし、精神的なプレッシャーも大きかったはずですから数週間はゆっくりと休まれることをお勧めします。自分も試験が終わってすぐは緊張が一気に解けてしばらく何をする気も起きませんでした。

その後、一息ついてふと「これから合格発表までどうしよう?」と思う受験生の方もいるかもしれません。

この記事では司法試験受験から合格発表までの過ごし方について、元受験生として、そしてその後、司法修習を経て弁護士となった者としての経験を踏まえて書いてみたいと思います。


受験から合格発表まで約4ヵ月をどう過ごすか



今年2021年の合格発表は9月7日の予定です。

つまり5月中旬に実施された司法試験から4ヵ月弱の時間があることになりますね。

しかし、自分もそうでしたが、この約4ヵ月の過ごし方、なかなか悩ましいものがあります。

なぜかというと、試験を受けてからその結果がまだ出ていない状態であるため、「合格していることを前提として過ごすべきか」、それとも「落ちている可能性を考慮して行動すべきか」を決めかねる部分があるからです。

慎重派の人は最悪の事態を想定して来年の司法試験に向けてすぐさま勉強を再開するのかもしれませんが、なかなかそこまで気持ちを切り替えるのは大変だと思います。

私もそうでしたが、受験後にまた元のように司法試験の勉強を再開する気にはなれませんでした。

気持ちがついていかないのに無理に勉強しようとしても難しいですし、集中力も続きません。その状態で無理に勉強しなければならないと思っても、むしろ勉強に身が入らない自分が嫌になってやる気を失う・・・という悪循環になります。

そのため、この合格発表までの約4ヵ月間は受験までの期間とは異なる期間だと認識して過ごすのがよいと思います。



試験を受けたときの手応えから自分の身の振り方を考える



合格発表までの期間をどう過ごすかを考える際、検討の出発点になるのは「受験のとき自分がどれくらいできたと感じたか」、つまり試験を受けたときの手応えです。


そこそこの手応えを感じた方の場合


もし、「そこそこやれた」という手応えがあるのであれば、その感触はかなり信頼していいのではないかと思います。私もそうですが、模試や大学・ロースクールでの試験など、これまでのご自身の経験を振り返ってみて、「しっかり書けた」と思った論文はおおむね高い評価だったはずです。その感触をひとまず信頼しましょう。


ある程度しっかり点数が取れているという感触があるのであれば、合格していることを前提に行動するのがよいと思います。なぜかというと、合格している可能性があると思いつつ不合格だったときのことを考えて試験勉強をしても身が入らないからです。

やる気が出ない状態のまま勉強をしても集中力は続きませんから非効率的です。それであれば別のことに時間を使ったほうがずっと有意義でしょう。

また、司法試験の受験勉強というのはご自身で考えているよりもずっと自分の心と体にとって負担になります。

あなたは今年の試験を受けるために少なくとも1年間は相当な負担を自分に課して勉強に打ち込んできました。いわば張りつめたゴムのような状態で試験を乗り切ったわけです。

ゴムをずっと張りつめたままにさせておくのはどこかで必ず無理が出ます。受験後の4ヵ月くらいは別のことに時間を使ってこのゴムを緩めるようにしましょう。万一不合格だったとしてもこの4ヵ月にリフレッシュしておくことはその後の勉強再開にとってむしろ大きなプラスとなります。

再受験が必要になる可能性があるからこそ受験直前とは異なる過ごし方をしてみてください。




不合格の可能性が高いと感じた方の場合


一方、受験の際の感触から、「あ、これは自分は落ちたな」と感じる人もいるかもしれません。たとえば、論文試験のいくつかでまったく何を書いてよいかわからず白紙に近い答案を提出してしまったようなケースなどです。

もっとも、自分では全然ダメだと思っていても他の受験生も同じような感じだったという場合はもちろんあります。問題が難しすぎたようなケースですね。なのでご自分の手応えとしては不合格の可能性が高いと感じていても合格しているという可能性はあります。

とはいえ、自分の実感として不合格の可能性が高いと思っているわけですから、来年に向けた勉強をしなければと感じるのではないかと思います。こうした感覚があるのであればむしろそれに従って行動するのがよいと思います。

しかし、だからといって受験直後からまた元のような勉強漬けの日々に戻るべきというわけではありません。先程書いたとおり、少なくとも1年間、司法試験の勉強に取り組んできたあなたは今すごく疲れています。

おそらく頭ではわかっていても直前期のようなペースでの勉強生活に戻るのはしんどい。そう感じる方が多いのではないでしょうか。それはあなたが勉強に打ち込み過ぎて疲れているからです。体と心がブレーキをかけようとしています。自分の体と心の疲弊は無視すべきではありません。

ですので、不合格の可能性が高いと感じている人も一定期間リフレッシュのための時間を確保することを私はお勧めします。少なくとも1ヵ月、必要であれば合格発表までの約4ヵ月間は「休むことが許されている期間」だと考えてください。

これは決して怠けているわけではありません。リフレッシュのための期間をしっかり取るからこそ、その後また勉強に打ち込むことができるようになります。これは来年の合格のために必要な期間です。

司法試験の勉強を休止することに対して罪悪感を覚えたり、「せっかく覚えた知識が抜けてしまうのでは?」と心配する方もいるかもしれません。

しかし、一度勉強したことはそう簡単に忘れるものではありません。多少記憶があいまいになったとしてもまた確認し直せばすぐに思い出すことができます。むしろ、直前期に猛烈に頭に詰め込んだ知識を「寝かせる」ことで情報として整理されて使いやすくなるという面もあります。

とはいえ勉強していないことがかえってストレスに感じてしまう人もいるかもしれません。その場合、ペースを落として勉強は継続するというやり方でもいいでしょう。たとえば、「1日に1時間だけは法律書を読む」というように負担を感じない程度に勉強すれば罪悪感を感じずに休むことができます。




合格発表までの過ごし方の提案


このように、司法試験の受験終了から合格発表までの期間は試験の手応えをふまえつつも基本的には「休む」、「リフレッシュする」という方針で過ごされるのがよいというのが私の意見です。

ここでは具体的にどういう過ごし方がありうるか、アイディアをいくつか紹介させていただきますので参考にしてみてください。


① アルバイトをする


合格発表までの間の過ごし方としてはアルバイトをしてみるのも有意義だと思います。実際、私も学習塾の講師などのアルバイトをしました。

アルバイトをお勧めする理由としては、合格していた場合その後に司法修習を受けることになる方が多いからです。

私のときは司法修習はいわゆる貸与制でした。現在は給費制に変わっており給料をもらいつつ司法修習を受けることができます。

とはいえ、支給される給料の額はそれほど高額ではありません。司法修習の任地にもよりますが支給される給料だけでやりくりしていくのはなかなか大変です。司法修習期間中に就職活動などのために遠方への移動が必要になるケースもあるためできるだけお金は貯めておいたほうがよいです。

私の場合、一番苦労したのは任地に引っ越すための転居費用を用意することでした。元々、札幌に住んでいたのですが任地が東京になったため、東京で新居を借りるための初期費用や引越し代などかなり高額の出費がありました。

司法修習の任地は希望を出すことができますが、必ず希望通りになるというわけではありません。そのためどの任地に飛ばされても大丈夫なようにある程度の転居費用を貯めておくには越したことがありません。


② 語学や資格の勉強をする


合格と司法修習修了後のキャリアを見据えて語学や資格の勉強をしておくのも有意義な過ごし方です。まったく勉強をせずに遊ぶよりも罪悪感を覚えずにリフレッシュできるという意味でも法律以外のことを勉強する時間に使うというのは良い面があるでしょう。

企業法務系の弁護士を目指している方であれば英語の能力は高めておくに越したことはありません。検察官や裁判官志望の方でも将来留学や国際機関などへの出向・転職を検討されている方は語学を勉強しておくのは必ず役に立つはずです。

語学以外の資格の勉強に時間をあてるのも良いアイディアです。4ヵ月で取得できる資格であれば簿記の3級などがお勧めかもしれません。会計の基礎的な知識を持っておくと企業法務を扱うときに役に立ちますし、将来独立開業したときも知識を活かせます。


③ 趣味を始める・再開する


アルバイト、語学・資格の勉強などのように実用的なことに時間を使うのもいいですが、せっかくの自由な時間なので思い切ってリフレッシュのために時間を使うのも手です。

今までやりたいと思いながらなかなか時間が取れなかった趣味を新しく始めてみたり、大学時代などにやっていた趣味を再開したりしてみてもよいでしょう。

司法試験の受験期間中は体を動かす機会もあまりなかったはずですから、運動系の趣味を始めてみるのもよいかもしれません。


④ 司法修習の準備をする


合格発表を待たずに司法修習の勉強を開始する人もいます。

司法修習では法律知識はもちろん問われますが、それまで本腰を入れては勉強していない要件事実や事実認定、実務的な手続などを改めて学習していくことになります。合格発表前に「予習」しておくと司法修習が始まってから精神的にも余裕を持って過ごせるでしょう。

特に裁判官や検察官志望の方の場合、司法修習中の成績が採用にかなり影響しますので予め勉強しておくとよいと思います。

他方、弁護士志望の場合、就活をしてみた感想としては司法修習中の成績が就職に有利に働くことはないのが通常だと思います。というのは、就職先の法律事務所は裁判所や検察庁と違って司法修習の成績を知る手段がないからです。就活中に司法修習中の成績について聞かれた経験も自分の場合は一度もありません。

そのため、弁護士志望ということで進路が固まっている人の場合、修習最後の二回試験に落ちない程度に勉強しておけば十分です。そのためには修習が始まってからしっかり勉強すれば十分だと思います。


⑤ 旅行に出かける


これは本当はかなりお勧めの時間の使い方なのですが、昨今のコロナウィルスの広まりの中だとなかなか気軽にできるものではありませんね。

私の場合、司法試験の受験後、その年の8月に東京で開催された「国際分野のスペシャリストを目指す法律家のためのセミナー」に参加するために東京旅行に出かけました。

日弁連が主催するセミナーで、弁護士が国際分野で活躍するためにどのようなキャリアの築き方があるか等をテーマにしたものです。

私は元々、海外には縁がない人間でしたが、その後弁護士になってから外務省の推薦を受けて国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に赴任しました。今思い返すと、この年に受けたセミナーはその後の進路を考える上で結構影響を与えていたのかなぁと思います。

旅行はわりと短期間のものでも日常から離れることができて気持ちを切り替えるのに役立ちます。

今後のコロナウィルスに関する状況が許すようであれば、旅行という時間の使い方も一つのアイディアですので検討してみてもよいかもしれません。



がんばったあなたを労わる時間にしましょう



この記事では司法試験受験後、合格発表までの時間の過ごし方について元受験生として、そして弁護士として、経験をふまえて解説しました。

色んな考慮要素はありますが、一番大切なのは自分自身を労わるために時間を使ってあげるということだと思います。

周りの人がみんな受けているのでもしかするとそんな意識はないかもしれませんが、司法試験というのはすごく大変な試験です。受け終わった後は心も体も疲れているはずです。まずはその疲れを癒すために時間を使ってあげてください。

その上でどう過ごしたらいいか。この記事が少しでも参考になれば幸いです。

合格発表までの期間が実り多いものになること、そして何よりもあなたの合格を祈っています。




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長崎で中小企業・個人事業主を主なクライアントとする法律事務所を開設している弁護士です。 東京で3年超、企業法務を扱う法律事務所でアソシエイト(勤務)弁護士として働いた後、外務省のJPO(Junior Professional Officer)制度で推薦を受けて国連の専門機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日事務所で2年間、法務担当の国際スタッフとして勤務しました。 その後、長崎で中小企業法務を扱う「長崎国際法律事務所」を開設しました。現在は中小企業向けの経営相談機関である「長崎県よろず支援拠点」の相談担当コーディネーターとしても稼働し、毎月多くの経営者からのビジネスに関する法律相談を担当しています。 知的財産(知財)に関する法律を専門としており、「長崎県知財総合支援窓口」にも専門家として登録して地元企業の特許、意匠、商標、著作権、営業秘密などに関する相談に対応しています。知的財産教育協会の認定する知的財産アナリスト(特許)の認定も受けています。 ■ 資格 弁護士資格有・登録済み(長崎県弁護士会所属) IELTSスコア7.5 知的財産アナリスト(特許) ■ 著作 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための法律の教科書」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための弁護士の上手な『使い方』」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための裁判の教科書」

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