【司法試験】説得力のある論文答案を書くコツ① 法律論文の基本構成をおさえる

2021/05/25

司法試験答案の書き方 司法試験勉強法

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こんにちは。弁護士の谷直樹です。

司法試験は大きく分けると短答試験と論文試験があります。

短答試験はいわゆる択一式試験とも呼ばれるもので、法律の条文や判例の正確な知識を身につけること、要するに「暗記」が求められる試験です。

要するに知識を覚えればよいわけですから解き方について悩むことはないはずです。

これに対して、論文試験は問題文の事実をもとに法律を適用して自分なりの答えを出すことが求められる試験です。

しかも、重要なのは結論の正しさだけでなくその結論を導く論理の流れを説得的に書く必要があるということ。

しかし、司法試験の論文を書き慣れていない人、特に独学で勉強している人にとっては「説得力のある論文」と言っても具体的にイメージすることは難しいのではないでしょうか。

そこで、司法試験の論文試験について、どのような点に注意すれば説得力のある論文を書くことができるのか、そのコツを解説していきたいと思います。

この記事では論文作成のコツの一つ「法律論文の基本構成をおさえる」について解説します。

本記事を読んで自分の論文の書き方を見直していただければ幸いです。

なお、この記事を書いている私は2011年に司法試験に上位合格し、現在は企業法務を専門的に扱い弁護士をしています。私の自己紹介については下の記事をご覧ください。弁護士が教える「ありのままの自分」で合格する司法試験勉強法




法律論文の基本構成は条文→事実→当てはめ



まず司法試験の論文の基本的な構成について簡単に解説します。

これについては「法的三段論法」なんていう難しい呼び方で説明されることもありますがそんなに複雑に考える必要はありません。

簡単に言うと、こういうことです。

  • これこれという内容の条文があります
  • こういう事実があります
  • この事実はこの条文に当てはまるのでこういう結果になります


これだけです。とてもシンプルですね。しかし、憲法でも、民法でも、刑法でも、民事訴訟法のような手続法でも、選択科目になっているような特別法でも、どの法律科目でも論文後世の基本は全てこうなっています。

この基本的な流れさえ守れていれば中身がスカスカだったとしても一応法律の論文として成立します。



基本構成をおさえていない間違った書き方の例



逆に、この流れを守っていない論文はどれだけ法律用語を並べていたとしても法律論文ではありません。

たとえば、次のような書き方になっている論文は法律論文の体をなしていません。


  1. 〇〇という事実があるので△△という結果になります(事実から直接結論を導いてしまっている)
  2. 条文ではこう決まっているのでこういう結果になります(事実の当てはめを行っていない)
  3. こういう法規範があり、これに〇〇という事実を当てはめると△△という結果になります(条文を飛ばしていきなり法規範を持ち出してしまっている)


「こんな論文を書く人なんているの?」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、私は大手の司法試験予備校で論文の添削指導もしていますが、実際にこういう書き方の論文になってしまっているケースに出会うことはそれほどめずらしくありません。

上記1は法学の勉強を始めたての人の憲法答案に多い書き方です。条文への当てはめという部分がないため、法律論文ではなく政治論、政策論のような論文になってしまっているケースです。

2は多少法律の勉強に慣れてきた人が論述を省略しすぎた結果陥ってしまいやすい書き方です。たとえば、刑法の構成要件の当てはめ。当てはまることが明らかな構成要件であっても一言事実に触れて「だから当てはまる」と書くことでこれは防ぐことができます。

3は上級者というか、規範定立や論証をよく暗記している人が陥りやすい間違いです。法規範はあくまでも法律の条文の解釈として導く必要がありますがそれをせずにいきなり法規範を持ち出してしまっているケースです。

ただし、3について言うと、憲法の一部の論点など、条文に基づかない法規範が出てくることがあります。たとえば、憲法の私人間効力などがその例です。憲法が国家に対する規範であり、私人間に直接適用できないというのは憲法の条文に出てくるわけではないので、条文を引用して導くという形にはなりません。こういう論点については条文を挙げる必要はありませんが、これはあくまでも例外です。依拠すべき条文がある場合、必ずそれを指摘して法規範を導くようにしましょう。



まず条文からスタートする


このように法律論文の基本的なスタート地点は一部の例外を除き必ず「法律の条文」です。

この原則を守るためには冒頭部分で必ず問題となる条文を引用するようにするのがよいでしょう。これはいわゆる問題提起とあわせて行うのが効率的です。

具体的に言うと、次のような書き方です。

「法〇条は△△と定めているが、本件においては□□であるからこの要件に当てはまるかが問題となる」

ポイントは条文番号と、その条文の中で問題となる要件を挙げることです。



条文の文言を解釈する


司法試験で出題される論文問題では条文の要件をストレートに当てはめて結論が出るようなケースはありません。

条文の要件にそのままでは当てはまるかどうかが微妙なケースが出題されます。

そして当てはまるかどうかを判断するために条文の文言をそのまま使うことができず、それを解釈する必要が出てきます。

条文の文言の解釈とは要するに「この条文にはこう書いてるけど、これはこういう意味だ」と説明することです。

具体例を挙げると、刑法の窃盗罪の条文には「窃取」という言葉が出てきます。


(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

この「窃取」の意味について、「占有者の意思に反して、その占有を排除して自己または第三者に移すこと」であると説明することが解釈です。

この解釈を導く際に必要となるのが判例や通説的な学説の知識です。つまり、「窃取」の意味について「判例や通説ではこういうふうに解釈されている」ということを理解していないと正しい文言解釈をすることができません。

たとえば「窃取」について、「占有ではなく所有権を奪うこと」と説明するのも一種の解釈ではありますが判例や通説の立場に照らすとこれは明らかに間違った解釈ということになります。

司法試験の論文では基本的に判例・通説の立場に立って文言解釈をするのが得策です。判例・通説以外の立場に立って解釈するのは問題文で判例・通説と異なる見解に立つよう指示があるケースか、または判例が存在していてもマイナーな判例であるために知識としておさえておらず独自の解釈をせざるを得ないケースくらいです。



必要に応じて法規範を定立する



条文の文言解釈をするだけで、あとは事実を当てはめれば結論が出る論点もあります。

しかし、一部の論点では事実の当てはめの基準を定めておく必要があります。

たとえば、考慮要素となる事実にはどのようなものがあるか、当てはめに必須の事実としてはどのようなものがあるか。こうした事実の当てはめの際の指針となる基準を設定することを法規範の定立、あるいは規範定立という呼び方をします。

この規範定立も基本的には判例・通説の考え方に基づいて行う必要があります。そのため文言解釈とあわせて判例・学説の知識が必要となる部分です。

文言解釈から法規範の定立までの流れにはお決まりのパターンとなっているものもあります。いわゆる論証パターンと呼ばれるものです。

典型的な論点の場合、この論証パターンに沿って書いていくと基本的には過不足のない論述になりますのでおさえておくと効率的に論点を処理できます。

もちろん問題によっては典型的な論証パターンだけでは対応できず、適宜変更を加えたりする必要が出てくるものもあります。しかし、まずは普通の書き方で書けるようになることが前提です。

基本的な論証パターンは問題を解いていると何度もぶつかるはずですのでそのたびに解答例などで書き方を確認していけば自然と書けるようになっていきます。個人的には論証パターンを覚えるために暗記のような勉強をする必要はないと思います。私もそうした勉強は特にしませんでしたが最終的にはよく使う論証パターンはしっかり身につけることができました。



解釈した要件または定立した法規範に沿って事実を当てはめる



条文の指摘→要件の解釈→法規範の定立まででおよそ法律論文の半分が書き終わったと思っていただいてよいと思います。

後半は「事実の当てはめ」です。

これは前半で示した要件や法規範に問題文に出てくる事実関係を具体的に当てはめるという工程です。

この部分の当てはめが上手く書けるかどうかが説得力のある司法試験答案を書くための鍵になります。

重要な点なのでこれは別記事にまとめます。

今回の記事では司法試験答案の基本的な構成を整理し、条文の提示、文言解釈、法規範の定立までの考え方とコツをまとめました。

この記事を参考に説得力のある論文を書く勉強に取り組んでいただけると幸いです。



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長崎で中小企業・個人事業主を主なクライアントとする法律事務所を開設している弁護士です。 東京で3年超、企業法務を扱う法律事務所でアソシエイト(勤務)弁護士として働いた後、外務省のJPO(Junior Professional Officer)制度で推薦を受けて国連の専門機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日事務所で2年間、法務担当の国際スタッフとして勤務しました。 その後、長崎で中小企業法務を扱う「長崎国際法律事務所」を開設しました。現在は中小企業向けの経営相談機関である「長崎県よろず支援拠点」の相談担当コーディネーターとしても稼働し、毎月多くの経営者からのビジネスに関する法律相談を担当しています。 知的財産(知財)に関する法律を専門としており、「長崎県知財総合支援窓口」にも専門家として登録して地元企業の特許、意匠、商標、著作権、営業秘密などに関する相談に対応しています。知的財産教育協会の認定する知的財産アナリスト(特許)の認定も受けています。 ■ 資格 弁護士資格有・登録済み(長崎県弁護士会所属) IELTSスコア7.5 知的財産アナリスト(特許) ■ 著作 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための法律の教科書」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための弁護士の上手な『使い方』」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための裁判の教科書」

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