【司法試験勉強】弁護士が教える選択科目の選び方

2021/05/21

司法試験勉強法

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このブログでは現役の弁護士が司法試験受験生時代の経験をふまえて合格に向けた勉強法を解説しています。

今回の記事は司法試験受験生が気になる論文選択科目の選び方についてです。

なお、選択科目を含め複数の科目ごとの勉強の進め方の手順やバランス配分については下の記事で解説していますのであわせてお読みいただくとよいと思います。


【インプット?アウトプット?】司法試験に合格するための勉強の順序はあるか



8つある選択科目から1つを選ぶ



まず前提として、司法試験の論文試験は次の4科目に分かれています。

  • 公法系科目
  • 民事系科目
  • 刑事系科目
  • 選択科目

このうち、公法系科目とは憲法と行政法です。

民事系科目は民法、商法、民事訴訟法。

そして、刑事系科目は刑法と刑事訴訟法です。

この7科目は全受験生が必ず受ける必要のある科目です。

これに対して、選択科目は次の8科目があり、この中から受験生は好きなものを1つだけ選んで受けることになります。

  • 倒産法
  • 租税法
  • 経済法
  • 知的財産法
  • 労働法
  • 環境法
  • 国際関係法(公法系)
  • 国際関係法(私法系)


つまり、司法試験の合格を目指す人は全員が受ける必要のある主要7科目+選択科目1科目の計8科目の法分野を勉強する必要があります。



科目間で有利不利はあるか?



8つある選択科目から1科目を選ぶわけですから最初に気になるのは「どの科目を選ぶかで受験上有利・不利があるか?」という点でしょう。

結論から言うと、どの科目を選択したとしても別の科目を選んだ受験生と比べて採点上不利になるということはありません。これはある意味当然だと思います。

とはいえ、勉強を進める上で全科目横並びかというと必ずしもそうとは限りません。

というのは、科目によっては教材となる問題集や参考書があまり出回っていないというケースもあるからです。たとえば、受験上ポピュラーな科目である労働法であれば大手の受験予備校が出している問題集がamazonなどのサイトで簡単に手に入りますが、国際公法や環境法などは検索してもそうした問題集が出てきません。

そのためマイナーな科目を選ぶと教材探しに苦労するというケースはあるでしょう。

また、あまり選択する人のいない科目の場合、たとえばゼミ形式で答練をしようにもグループを組んでくれる相手が見つからないということも多いはずです。

選択科目を選ぶときはこのあたりの実際上の不便などもありうるということを念頭に置いておくことが大切です。



すでに勉強したことのある科目を選ぶのも一つの手



選択科目を選ぶ際、一つのやり方としては「すでに勉強したことのある科目の中から選ぶ」という方法もあります。これは特に法学部出身の人や弁護士以外の法律専門職の方が司法試験の受験を目指す場合に一考に値する方法です。

大学の法学部に在籍していた人であれば主要7科目だけでなく、労働法や倒産法などの法律科目を履修していたというケースは多いでしょう。一度でも体系的に学習したことのある法分野であれば受験対策のための勉強にも取り掛かりやすいのでこうした受講済みの科目の中から選ぶというのは良い方法の一つです。

社労士や弁理士のように弁護士以外の専門家の方がいわゆるダブルライセンスを目指して司法試験を受験する場合、ご自分の現在の専門分野に関係する選択科目を選ぶのがやはり効率的でしょう。社労士であれば労働法、弁理士であれば知的財産法ということになります。

逆に言うと、法学未修者の場合、このような「すでに知っている科目」を選ぶという選び方ができないため選択科目を決めるのはかなり悩ましいのではないかと思います。



合格後を見据えて選択科目を選ぶ



司法試験に合格することだけを考えるのであればすでに勉強したことのある科目や、教材の入手がしやすい科目を選ぶべきということになりますが、合格後、弁護士として仕事をしている立場からすると、そのような選び方は若干「もったいない」気がします。

実は司法試験の合格者の中で専門分野を差別化する数少ない要素の一つが選択科目だからです。

「私は民法が得意です」、「会社法に特に詳しいです」と言っても司法試験に合格している以上、そうした主要科目についてはみんな一定の知識があることが前提とされます。

これに対して、選択科目は「他の科目を選んだ合格者よりもその法分野に強い/力を入れて勉強してきた」ということを客観的に証明することができるものです。

合格後の就活の際も司法試験の選択科目と引き付けて自分の興味関心や得意分野をアピールすることが可能です。

また、就活の際だけでなく実務に出てからも選択科目で選んだ法分野については基礎的な知識がしっかり身についていますから仕事に活かすことができます。私も知財法を選択しましたので、企業法務の中でも特許、商標、著作権といった知財分野の法律相談に自信を持って対応することができました。

したがって、現役の弁護士の立場としては司法試験受験生の方にはぜひ合格後のキャリアを見据えて選択科目を選んでほしいと思います。

参考までに各科目を選ぶ際の着眼点をまとめてみます。


対個人、対企業ともに需要の多い倒産法


倒産法は破産や民事再生など、経済的に破綻した個人や法人の法律問題を扱い際には避けて通れない法分野です。債務整理(任意整理)なども破産手続と地続きになっている面があり、個人向け、企業向けともに弁護士需要の多い分野といえるでしょう。

合格後いわゆる「町弁」として普通の法律事務所の勤務したり、あるいは独立開業する場合、破産はかなり重要な仕事(収入源)となります。司法試験の選択科目で選ばなくても合格後に勉強が必要になる可能性の高い法分野です。

企業法務を扱う弁護士を希望する場合も法人破産や会社更生の案件を処理する上で破産法の知識は役に立ちます。選択科目として選んでおいて損はない科目と言えます。

他方、企業の法務部で勤務するいわゆるインハウスローヤー志望の方の場合、倒産法の知識はあまり活かせる場面はないかもしれません。というのは、インハウスローヤーが倒産法の知識を活かせる場面というのは自社の経営が傾いてしまって再起が難しくなってしまっているような状況だからです。

倒産法は司法試験受験生にとっても比較的人気の高い科目の一つであり、直近の令和3年(2021年)の司法試験では全体の12.87%が倒産法を選択しているようです。



税務訴訟に対応できる弁護士を目指すなら租税法


租税法は弁護士の中でも勉強している人が少ない法分野といえるでしょう。税務に関しては税理士の領分なので基本的に手を出さないというスタンスの弁護士も少なくありません。

これを反映してなのか司法試験受験生で租税法を選択する人は少なめです。2021年の司法試験で租税法を選択したのは8.34%で、下位3番目です。

もっとも、勉強している弁護士が少ないということは知識として希少性があるということです。税務訴訟に対応できる専門的な法律事務所への就職を視野に入れている人は租税法を選択科目にしておくとアピールしやすいでしょう。

また、英語など外国語に自信がある人は国際税務などのさらに希少価値のある法分野を目指すことも可能です。これは対応できる人が少ないだけにしっかり勉強すれば弁護士として独自の地位を確立できる可能性もあります。



大企業向けと思いきや中小企業法務でも使う経済法


経済法で扱うのは独占禁止法です。これはカルテルなど大企業向けの法律に見えますが、弁護士として働いていると意外にも中小企業の法律相談などでも知識を問われることが多いことに気付く法分野です。

優越的地位の濫用など、立場の弱い小規模な企業を守るために機能する法律でもあるので勉強しておくことで大企業向けの法務だけでなく、中小企業法務でも知識を活用できる場面があるでしょう。

他方、法律の性質上、一般個人向けの法律相談にはあまり縁がない法分野です。そのため個人を対象とする法律事務所への就職や独立開業を考えている人にとっては合格後あまり活用できないというケースが多いかもしれません。

経済法は選択科目としては人気が高く直近2021年の司法試験では18.70%の人が経済法を選択しました。これは上から2番目です。



伸びしろのある法分野で理系出身者にもお勧めの知的財産法


知的財産法は特許法と著作権法という2つの法律をメインで扱います。

いわゆる知財法務を扱う弁護士として活躍することを目指している方の場合、当然ながら知的財産法を選択するのがお勧めです。日本の産業構造として工業はやや下火になってきていますが、その代わりにコンピュータ関連の技術は今後も発展していくことが見込まれます。それに伴って、AIやビッグデータなど知的財産に関する法律問題は今後も増加し、それに対応できる知識を持った弁護士の需要も増えるのではないかと思います。

また、インターネットの発展のおかげで副業としてコンテンツを制作したり、ブログ、SNS、動画配信サイトなどで発信を行う個人の方も飛躍的に増えました。それに伴って画像や文章の無断転載や盗用といった著作権に関する問題も増える傾向にあります。

このように新しい法律問題に対応できる弁護士を目指すのであれば知的財産法はお勧めの選択科目です。私も知的財産法を選択し、現在は弁護士としてそれを活かして公的な相談機関で知財に関する相談担当などをしています。

また、組織内弁護士(インハウス)を志望する場合も知財関係の法律問題にぶつかることが多いはずです。

知的財産法は直近2021年の試験では14.04%の人が選択しました。上から3番目で、なかなか人気のある選択科目であるということがわかります。


弁護士として働くなら決して無駄にならない労働法


労働法の知識は弁護士として働く場合、おそらく無駄になることがないものでしょう。

一般個人向けの町弁をする場合も不当解雇など労務に関する法律問題はよく出くわすものですし、使用者である企業側に立つ弁護士の場合も労働法に関する相談は需要が高い分野です。

将来のキャリアを決めかねている人の場合、労働法を選んでおけばおそらく後悔することはないはずです。他方、弁護士になってから勉強している人が多い法分野ではあるので希少性という点では他の法科目に一歩劣る面があるかもしれません。

2021年の司法試験では29.65%の受験生が労働法を選んでおり、2位以下に大きく差をつけて1番たくさんの人に選ばれている選択科目となっています。


行政訴訟や環境活動に関心がある場合は環境法


環境法は弁護士によってはまったく扱うことのない法分野かもしれません。私も弁護士になってからもう8年経っていますが、この間いわゆる環境法に関する法律問題を扱ったことは一度もありません。

かなり特殊な法分野なので、逆に言うと将来のキャリアとして扱いたいという希望を持っているときはぜひ環境法を選ぶとよいと思います。勉強している人が少ないため希少性が高いというのも魅力といえるでしょう。

弁護士として働く上ではいわゆる環境訴訟を扱う弁護士として活動する場合、環境法の知識を活かせます。もしくは環境保護系のNGOや国際機関などへの就職を志望している方の場合、環境法を勉強しておくとアピールできるのではないかと思います。

環境法を選択科目として選ぶ人は少なく、2021年の試験では4.56%、下から2番目となっています。


国際機関への就職を目指すならお勧めの国際公法


環境法よりもさらに選択する人が少ないのが国際関係法(公法系)です。ちなみに2021年の試験でこれを選択したのはわずか1.41%の受験生でした。

いわゆる国際法と呼ばれる法分野には国際公法と国際私法(国際取引法)がありますが、国際公法は国と国、あるいは国と国際機関などとの間を規律する法分野です。その性質上、外交問題などスケールが非常に大きな話になるので普通の弁護士が業務の中で扱うことはほとんどない法分野と言ってよいでしょう。

ただ、キャリアのことを考える上でまったくメリットがないかというと決してそんなことはありません。たとえば、国連などの国際機関への就職を志望する方の場合、国際公法を学んでおくと知識を活かせる場面が出てくるはずです。

実は司法試験に合格して弁護士資格を取得した人にとって国際機関への就職というのは意外と身近なものです。たとえば、外務省には日本人の若手の専門家を国連の機関に推薦して送り込むJPO(Junior Professional Officer)という制度があります。私もこのJPOとして推薦を受けて2年間、国連の専門機関の一つである国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で国際公務員として働きました。

弁護士の有資格者が国際機関に就職する場合、おそらくポストは法務(Legal Officer)というケースが多いはずです。その場合、専門機関ごとの関連する法律(たとえばILOであれば労働法)以外に国際公法の知識が活きてきます。

将来的に国際機関での勤務を視野に入れている方の場合、希少性が高いという点でアピールポイントになるので国際公法を選択科目にするのは選択肢の一つだと思います。



国際取引に対応できる弁護士を目指すなら国際私法


国際公法以外に国際関係法として国際私法も選択科目の一つとなっています。これは具体的に言うと、私人間の国際的な法律関係に関して、どの国の法律を適用するかという問題をメインに扱う法分野です。各国の法律同士がぶつかる場面を扱う法分野なので「抵触法」と呼ばれることもあります。

特に企業法務で国際的な取引を弁護士として扱う場合、この国際私法の知識はかなり役立ちます。なぜなら外国企業との取引では常にどの国の法律でその契約を解釈するかという点が問題になるからです。企業をクライアントとする国際法務を扱う弁護士の場合、国際私法は必ず勉強が必要になる法分野と言ってよいでしょう。

また、企業法務以外でもたとえば国際離婚などを扱う弁護士の場合も国際私法に関する知識が役に立ちます。

逆に、国内法務しか扱わないという弁護士の場合、あまり重要度が高くない法分野と言えますが、国際的な人の移動やECサイトなどを使った海外との取引が増加してきている現在の状況を見ると将来普通の弁護士にとっても避けては通れなくなる法分野になりかもしれません。

英語が得意で合格後にそれを活かしたキャリアを歩んでいきたいと考えている受験生の方の場合、国際私法はお勧めできる選択肢と言えるでしょう。2021年の試験でこれを選んだのは10.44%でした。ここからも受験生の関心度が比較的高い法分野だということがうかがえます。



受験上の有利・不利よりも先を見据えて考える


以上、この記事では弁護士の視点から司法試験の選択科目を選ぶ際の着眼点について解説しました。

私のお勧めとしてはやはり合格後のキャリアのことを視野に入れて選択科目を選ぶということです。司法試験の勉強は2年、3年、場合によっては更に長い期間に及びます。その間、選択科目にも少なからぬ時間と労力を投入します。これを単に「試験に受かるためのハードル」としてのみ位置付けるのは事情にもったいないと思います。

選択科目はなるべく早めに決めて勉強に取り掛かるのが大切ですが、それでも一度足を止めて「自分が合格後に何をしたいか」、「どんな人生を歩んでいきたいか」ということをゆっくり考えてみるのがよいと思います。

司法試験の勉強の中で何を勉強するかを選べる機会はそう多くはありません。ぜひその貴重な機会を自分自身を見つめる機会として利用してみてください。



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長崎で中小企業・個人事業主を主なクライアントとする法律事務所を開設している弁護士です。 東京で3年超、企業法務を扱う法律事務所でアソシエイト(勤務)弁護士として働いた後、外務省のJPO(Junior Professional Officer)制度で推薦を受けて国連の専門機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日事務所で2年間、法務担当の国際スタッフとして勤務しました。 その後、長崎で中小企業法務を扱う「長崎国際法律事務所」を開設しました。現在は中小企業向けの経営相談機関である「長崎県よろず支援拠点」の相談担当コーディネーターとしても稼働し、毎月多くの経営者からのビジネスに関する法律相談を担当しています。 知的財産(知財)に関する法律を専門としており、「長崎県知財総合支援窓口」にも専門家として登録して地元企業の特許、意匠、商標、著作権、営業秘密などに関する相談に対応しています。知的財産教育協会の認定する知的財産アナリスト(特許)の認定も受けています。 ■ 資格 弁護士資格有・登録済み(長崎県弁護士会所属) IELTSスコア7.5 知的財産アナリスト(特許) ■ 著作 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための法律の教科書」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための弁護士の上手な『使い方』」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための裁判の教科書」

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