司法試験受験生にはありがちな勉強に関する「これをしなければ」という考え方が存在します。
前の記事ではそのうち、次の4つについて解説し、「合格のためにそこまでしなくても大丈夫」ということを書きました。
- やらなくていいこと① 誰か特定の先生が書いた教科書や問題集をやる
- やらなくていいこと② 判例百選を全部読む
- やらなくていいこと③ 条文の素読み
- やらなくていいこと④ 最高裁判所の調査官解説を読む
本記事では前の記事で紹介した4つの「やらなくても大丈夫なこと」に加えて、さらに4つについて解説します。
この記事を読んで自分の勉強法の「やりすぎ」な部分に気付き、気持ちを楽に持って学習に取り組んでいってください。
やらなくていいこと⑤ 予備校に通ったり予備校の模試を受ける
念のため最初に書いておきますが私は司法試験予備校で勉強することに対しては肯定派です。
私は予備校の講座を受けたことはありませんが、受験生時代に予備校が主催している模試を受けたことがあります。また、合格後も大手の司法試験予備校で添削指導の仕事もしています。
予備校は司法試験で出される問題を日夜研究して効果的な試験対策を検討し、それを受講生に提供しています。
効率的に学習を進める上で司法試験予備校に通うことには大きなメリットがあります。
では、司法試験を合格するために予備校を利用することが必須かというと決してそんなことはありません。
私自身、1、2回の模試は別として予備校の講座は一度も受けませんでしたが問題なく合格できました。
司法試験予備校の最大のネックはやはり経済的な負担です。
学校によって異なりますが司法試験講座をフルに受けるとなると数十万円~100万円超の費用がかかります。アルバイト、奨学金、ご家族からの仕送り等で学費と生活費をまかなっていることの多い受験生にとってこの経済的負担はかなり大きいでしょう。
後でも書きますが、司法試験に合格するために一番大切なのは「心を折らずに勉強を続けること」です。これができれば合格できますし、できなければ諦めて違う道に進むということになります。
司法試験予備校を利用するのは効率的な学習という点では大きなメリットがあります。経済的に余裕がある人であれば受けるのにまったく反対はしません。
問題は経済事情からどうしても予備校を利用できない人、あるいは生活費を切り詰めたり借金をしたりといった無理をしなければ予備校に通えない人のケースです。
このような受験生の方は無理に予備校に通おうとする必要はありません。また、予備校を利用できないことで「周りに差をつけられている」とか、「不利な競争を強いられている」といった気持ちを持つ必要もありません。
司法試験に合格するために必要なのは気長に努力を続けることです。
予備校に通うかどうかによって決まるわけではありません。潤沢な資金があって予備校に通っていても勉強し続ける毎日に心が折れて途中であきらめてしまう人は大勢います。
逆に、予備校は使わなくても心を健康に保って最後まで勉強をやり通した人は必ず合格できるのが司法試験です。
予備校通いが経済的に大きな負担となる人は「あえて通わない」という選択をしたほうがよい場合もあります。
なぜなら、お金の心配というのは人が抱える悩みの中でもかなり切実なものだからです。
時間が足りない人はお金を払ってサービスを利用したり、便利な家電を買ったりして時間を「作る」ことができます。お金に余裕があればアルバイトをやめて自由時間を「増やす」こともできるでしょう。
健康に不安がある人であれば少し良い食材を使って健康的な食事をしたり、ジムに通ったりして健康を「買う」ことができます。
これに対して、お金が足りない人の場合、手軽にそれを何とかする方法はありません。そして、お金がなければご飯を食べることも家に住むこともできないので生存自体が厳しくなってきます。
こういう悩みを抱えながら毎日机に向かって勉強を続けるのがどれだけ大変なことか、想像すればわかるはずです。
高いお金を払って予備校に通うことにしても経済的な不安があるせいで勉強に身が入らないというのでは本末転倒です。
ですから、私が提案したいのは「お金に余裕がある人以外は予備校には通わなくてもよい」ということです。なけなしの数十万円を予備校に払う代わりに、自分の暮らしを豊かにするのに使ったほうが勉強を続けるのに有意義です。
予備校は司法試験合格のために役には立つが必須ではない。
司法試験予備校を利用するかどうかを検討中の受験生はこのことを念頭に置いてどうするかを考えてみていただければと思います。
やらなくていいこと⑥ 問題集を1冊通してやりきる
せっかく買った問題集を最後までやりきることができずに罪悪感を感じている。
そんな受験生の方もきっと多いのではないでしょうか。
しかし、問題集を1冊やり通すことができなくても司法試験に合格することはできます。
冷静に考えればわかると思いますが、たとえば20問の問題が載っている問題集を1冊やり通すのと、4冊の問題集からそれぞれ5問ずつ問題を解くのは勉強量という意味では何一つ違いがありません。
もちろん、1冊の問題集をやり通すことのメリットはあります。
- たくさんの問題集を買わずに済むのでお金を節約できる
- その問題集の形式(たとえば解説にはどんなことが書いてあるか。模範答案は載っているか、等)に慣れるので解くときに余計なことを考えずに済む
- 1冊をやり通したという達成感や自信を感じることができる
しかし、問題集を最後のページまで丸々終わらせられなかったからといって「自分はダメだ」とか「これでは合格できない」などと考える必要はまったくありません。
上で書いたとおり、1冊の問題集をやり通すことができないのであれば何冊かの問題集をやってもいいのです。そのようなやり方であっても勉強を継続して十分な量をこなすことができれば問題なく司法試験には合格できます。
人には個性があります。司法試験受験生も人なので当然「人それぞれ」です。
1冊の問題集をじっくりやるのが好きで得意な人もいれば、新しい刺激を求めて色々な教材をはしごする人もいます。これはただの個性なのでどちらかが正しくてどちらかが間違っているというものではありません。新しい教材を使いたくなるのは意志が弱いのではなく、その人の考え方の癖、個性というだけの話です。
司法試験に合格するためには自分の性格や人格を作り変えたり矯正したりすることは必要ではありません。
自分がどんな人間なのかを理解して、それに合わせた勉強法で無理なく学習を進めていくほうがずっと効率的ですし、幸せになれます。
あなたは受験生である以前に一人の人間です。人間にとって一番幸せなのはありのままの姿でいられること。司法試験の勉強はすごく不自然な努力を強いられることではありますが、だからこそできるだけ自分の本当の姿、個性に合わせて努力の方法を変えたほうが人生の質は上がりますし、結局は合格が近づきます。
1冊の問題集をやり通すことのできない自分自身を認めてあげるところから始めてください。
そんなあなたでも必ず合格はできます。大丈夫。
やらなくていいこと⑦ ゼミ形式で答案練習をする
最初に告白させていただくと、私、すごく友達が少ないです(笑)
特に高校と大学(学部)時代には友達と呼べる人は自分の周りに一人もいませんでした。いつも教室や図書館で本を読んでいるような人間で、他人から話しかけられてもどう答えてよいかわからない、そんな人間でした。
私ほど極端ではないにせよ人間関係が得意でない受験生の方もきっといるはずです。
安心してください。人間関係が得意でなくても司法試験には合格できます。
司法試験に合格するために自分の人との距離の取り方まで変えてしまう必要はありません。それは能力の問題ではなくあなたの個性です。自分自身の姿を変えてまでしなければならない勉強はこの世にないはずです。
交友関係の少ない受験生にとって、たとえば他の受験生仲間と答案練習をする機会が持てないことに対して、すごく不利な立場に置かれていると感じる人もいるかもしれません。
確かに受験生同士で集まってゼミ形式の答案練習会をするのは効果的な勉強法ですし、私もロースクール時代には友人とそういうゼミをしていました。私もロースクールに入ってから多少は人とコミュニケーションが取れるようになっていたんですね。
とはいえ、そのようなゼミをやらなければ合格できなかったかというとそんなことはないと思います。
いくらゼミを組んで勉強するとはいっても、1日に5時間も6時間も一緒に勉強するというわけではありません。せいぜい1週間に2時間程度集まって一緒に勉強するくらいでしょう。
逆に言うと、それ以外の大半の時間は自分一人で勉強することになります。合格できるかどうかを決めるのはこの一人の勉強時間です。
ゼミを組んで他の人と勉強するのが楽しいと感じる人もいれば、そういうのは面倒くさい、苦痛だと感じる人もいます。
面倒くさい、苦しいと感じながらそんなことをやる必要はまったくありませんし、ゼミを組めないからといって悲観する必要もありません。
司法試験の勉強をしているあなたは一人の個性ある人間です。
自分の個性に合わせて勉強しましょう。勉強方法に合わせて自分の個性を変えることは不可能ですし、そうしようと努力する必要もありません。
あなたはあなたのまま勉強を続ければ必ず合格できます。
やらなくていいこと⑧ 毎日〇時間勉強する
この記事を読んでいるあなたは毎日どのくらい司法試験の勉強に時間を使っているのでしょうか。
難関試験である司法試験に受かるためにはどのくらい勉強しなければならないのか。受験生にとっては非常に気になる部分だと思います。
そこで受験生が合格者の方に「どれくらい勉強しましたか?」と尋ねると、返ってくる答えは大抵2パターンに分かれます。
- 私は毎日〇時間も勉強した(このくらい勉強しないと合格なんてできない)
- 自分はほとんど勉強せずに遊んでいた(勉強しなくても合格できたのは私の地頭が良いから)
考えなくてもわかると思いますがどちらの答えもアドバイスというよりは一種のマウンティングですね。なのでこういう合格者の言葉は聞き流しておいて大丈夫です。
司法試験に合格するためにはある一定程度以上の時間を勉強に使うことは必ず必要ですが、それがどのくらいなのかは人によって異なります。
同じ1時間でも寝不足で半分夢の中にいながら基本書の字面を追っているのと、いわゆる「ゾーン」に入ったような高い集中力で問題集を解いているのとでは学習効果はまったく違います。後者の状態での勉強であれば10分だけでも夢心地の1時間よりも定着度は高いかもしれません。
このように、司法試験の勉強を時間の長さで計ろうとするのはナンセンスです。
「合格には1日〇時間以上の勉強が必要」というのは別に根拠がある話ではないのであまり気にしないようにしましょう。
また、「合格のためには毎日勉強しなければならない」というのも特に根拠はありません。
むしろ適切に心と体を休めながら勉強を継続したほうが長い目で見るとプラスになります。
大切なのは「あー、自分は今日〇時間しか勉強できていない」、「受験生なのに今日は勉強せずに遊んでしまった」と罪悪感を感じる必要はないということです。
もちろん毎日遊んでいては合格できないのは確かですが、受験生であるあなたも人間なので怠けたくなったり、体調が悪かったり、何となく気が載らなかったりすることは当然あります。それを意志の力でおさえこんで無理やり自分の体を机に向かわせようとするよりも、むしろ「今日はどうして勉強したくないのか」ということを考えてその原因を解決したほうがずっと目的達成に役立ちます。
たとえば連日遅くまで勉強していて疲労がたまっているのであれば思い切って休むのも一つの手です。
自分の健康のこと、お金のこと、人間関係のことで悩みがあって勉強に手がつかないということであれば勉強時間を一時的に削ってでもそれを解決するのに時間を使うほうがずっと建設的といえます。
大切なのは「毎日〇時間勉強しないと!」と焦る必要はないということです。
司法試験合格までの勉強期間は短くても2年、人によってはもっとかかる長い戦いです。
一日、あるいは一週間の勉強時間に一喜一憂するよりその長い期間中、心を折らずに最後まで勉強を続けるほうがずっと大切です。そのためには途中で適度に休んだり、怠けたりすることはむしろ必要なことだと考えましょう。
司法試験に合格するためにやらなければならないたった一つのこと
ここまで司法試験受験生が「やらなければいけない」と思いがちな、しかし実際にはやる必要のない勉強について解説してきました。
「あれもしなくていい。これもしなくてもいいってことだと逆に何をすればよいのかわからない」
そう思われる受験生の方もいるかもしれません。
合格するために役立つ勉強、必要な勉強というものはもちろん色々あります。
たとえば、各科目の基礎的な法律知識を頭に入れておくことは当然必要です。ただ、そのための勉強法として、基本書を読むのか、予備校の対策本を読むのか、条文を素読みするのか、判例集を読むのか・・・具体的な方法は本当に様々あります。
そのどれかをしないと合格できないというわけではありません。
人によって合う勉強と合わない勉強というものがあります。教科書を一から読もうとしてもすぐに眠くなってしまう人であればおそらくその勉強法は向いていません。自分に向いていない勉強法に無理やり自分を合わせるよりも自分に合った勉強の仕方を見つけて実践するほうがずっと効率的です。
たとえば、教科書を読むのが苦痛に感じる人であれば図や箇条書きなどで短くまとめた予備校の対策本をやるほうがいいかもしれません。あるいは問題集を解いて、そこで出てきた箇所だけは教科書を読むようにする、といった方法だと継続できる場合もあります。
大切なのは自分の個性をきちんと理解してそれに勉強法を合わせて無理なく続けられるようにカスタマイズすることです。
合格するために身につけなければいけない知識や能力はいくつかありますが、その全てに関して身につけるための方法は複数あります。そのどれが自分に合っているかを考えるようにしましょう。
合格のためにただ一つ、絶対にやらなければならないことがあります。
それは、
勉強を継続する
ということです。
これができれば司法試験には合格できますし、逆にどれだけ優れた能力のある人でも途中で勉強を続けられなくなれば合格はできません。
やらなくてもいい勉強にこだわって苦しくなってしまうのは勉強を継続する上で大きなマイナスです。意志の力、精神力でそれを乗り切ってしまう人も中にはいるかもしれませんが、それができる人だけが司法試験に受かるというわけではありません。
自分という人間を無視して型に当てはめた勉強法に無理やり自分を押し込めようとしないでください。
むしろ自分がどういう人間なのかを理解して、それを認めてあげることのほうがずっと良い結果に結びつきます。そして、それができる人は合格後もずっと充実した人生を送ることができるはずです。
司法試験に合格するために、あなたはあなた以外の誰かになる必要はありません。
あなたはあなたのまま合格できますし、幸せになれます。
私はそう信じています。