【ロースクール生向け】司法試験合格のための大学院の授業との向き合い方

2021/05/20

ロースクール生 司法試験勉強法

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こんにちは。弁護士の谷直樹です。

このブログでは司法試験に合格した元・受験生の立場から「無理なく途中で心を折らずに司法試験に合格すること」を目標にした勉強に対する取り組み方を解説しています。

今回の記事は現在ロースクールに在学中の受験生の方向けです。

ロースクールに通っていると、当然司法試験の勉強と併行してロースクールの授業のための予習・復習や課題、中間・期末などのテストが出てきます。

私も法科大学院経由で合格した人間なので在学当時は司法試験対策のための勉強とロースクールの授業のための勉強、どうバランスを取ったらいいか悩みました。

この記事ではロースクール生として卒業し、その後の司法試験で合格した経験に基づき、ロースクールの授業とどう向き合っていったらいいかを解説したいと思います。

また、基本的には現役ロースクール生が読むことで役に立つ記事ですが、これからロースクールに入るかどうかを迷っている人にとっても知っておいていただくと有益な内容だと思います。




問題は司法試験とロースクールの学習内容の乖離?



本題に入る前に問題状況を整理してみましょう。

なぜ、ロースクールの授業のための勉強と司法試験対策の勉強、そのバランスの取り方や向き合い方で悩むのでしょうか?

それは受験生が最終目標としている司法試験合格というゴールのために必要な勉強と、ロースクールの授業で教わる内容がだいぶかけ離れている部分があるからです。

その2つが一致しているのであれば、ロースクールの授業のために勉強すればイコール司法試験の受験のための勉強になるわけですから受験生としてはまったく悩む必要はありません。問題はその2つの間にズレがあるためにジレンマが生じてしまうわけですね。

では、具体的にどのような点に乖離があるのかというと、次のようにまとめることができると思います。


  1. ロースクールではそもそも受験に関係のない科目もある
  2. ロースクールの授業は学説中心になっている
  3. ロースクールの授業では司法試験の論文をどう書いたらよいかということは教えてくれない
  4. ロースクールの授業では論文を書く練習をほとんどしない


それぞれ少し細かく説明していきます。



① ロースクールではそもそも受験に関係のない科目もある


これはすごくわかりやすいズレですね。

司法試験では基本的に憲法、民法、刑法、行政法、会社法、民事訴訟法、刑事訴訟法の主要7科目に加えて選択科目を1科目の計8科目の試験を受けることになります。

しかし、ロースクールでは必ずしも受験にとって必要な科目以外も卒業要件を満たすために一定程度受講して単位を取る必要があります。

たとえば、知的財産法を選択科目に選んだ私の場合、労働法や国際私法なんかは受験には不要な科目ですがロースクールでは受講して単位を取りました。

法律科目ならまだしも法律の試験を受ける上で多少の勉強にはなると思えますが、政治学とか行政学とかのそもそも法律とは直接関係のない科目も卒業のために一定程度受けなければならないケースもあるでしょう。

司法試験の勉強にできるだけ時間と労力を使いたい受験生にとって受験と無関係の勉強を強いられるのはかなり大きなストレスになります。




② ロースクールの授業は学説中心になっている


憲法、民法、刑法など、司法試験に関係のある科目の授業の場合もそこで教えられる内容は司法試験で出題される内容と結構乖離している部分があります。

具体的に言うと、ロースクールの授業はどうしても学術的、すなわちアカデミックな内容に傾きがちという点です。

これはロースクールで法律を教えている先生がそういうアカデミックな世界にどっぷり浸かって日夜研究をしている法学の教授先生なのである意味そうなって当然という面があります。司法試験に合格したり、受験したりした経験のない先生が科目を教えているというケースもあるでしょう。

司法試験の論文では学説について細分化された細かい知識が問われるということはありません。判例を中心とした通説的な見解をきちんとおさえておけば十分合格できるのであまりアカデミックな部分に深入りする勉強は無駄が多いといえるでしょう。



③ ロースクールの授業では司法試験の論文をどう書いたらよいかということは教えてくれない


これは実はロースクール+司法試験という現行の制度の中でかなり大きな問題かもしれません。

司法試験の論文の書き方をきちんと教えてくれるロースクールの授業というものに私は受験生時代に一度も出会ったことがありませんでした。

「論文の書き方は自分で勉強して身につけましょう」ということなのかもしれませんが、それがわからないので受験生はみんな大学院の授業を真剣に受けるかわりに予備校に通うんじゃないかなと思います。

本来であれば、「ロースクールの授業で習ったとおり勉強して試験に臨めば問題なく合格できる」というのが現行制度のあるべき姿だと思いますが実際にはそうなっていません。

先程の項目で書いたことと重なりますが、論文試験でどう書けばよいかということを教えられる知識を持った先生ばかりではありませんし、こうした指導をするのは先生側に労力がかかって大変という部分もあるのでしょう。

受験生としては一番知りたい、身につけたいのが司法試験の論文の書き方だと思いますから、これをきちんと教えてくれないロースクールの授業に打ち込む気持ちが起こらないというのは非常によくわかる話です。



④ ロースクールの授業では論文を書く練習をほとんどしない


③で書いたことと重なりますが、ロースクールの授業では座学中心で、実際に論文答案を書く練習というものを授業の中ではほとんど行いません。

論文試験の対策のためにはどうしてもアウトプット、すなわち論文を実際に書いてみる練習が必要になってきます。しかし、ロースクールでは授業中にそういった練習をする機会はありません。せいぜい中間と期末のテストのときくらいでしょう。

ロースクールの授業だけでは論文答案を書く練習量が圧倒的に不足します。

「座学で先生の講義を聞く時間があるなら論文を書く練習にあてたい」、そう思う受験生の気持ちはすごくよくわかります。





ではロースクールの授業にどう向き合うべきか



前置きが長くなりましたが、ロースクールの授業に今一つ身が入らないと感じる受験生の気持ちには十分な理由があることがわかったはずです。

では、それを前提として、ロースクール生としては司法試験の勉強とロースクール、その2つの折合いをどうつけたらよいのか。それを私なりの視点で分析してまとめてみたいと思います。



卒業できる程度にロースクールに付き合う



私としてはこれがロースクール生の基本方針ということでよいと思います。

法科大学院の先生、特に熱心に授業をされている先生方には非常に心苦しいのですが、ロースクールでの勉強と本番の司法試験には大きな乖離があり、ロースクールが受験生にとって足かせになっている現状ではこういう対応にならざるをえませんね。

ロースクール経由で合格を目指している人にとっては司法試験の受験資格を得る上で卒業は必須なのでそこはクリアできるように単位を取っていきましょう。

取得単位も最低限でいいと思います。ただ、何か突発的なアクシデントで単位を落としてしまったときのことを考えて多少の余裕は持たせた方がいいとは思いますが。

授業の予習、復習、課題提出、テストなんかも単位取得に問題がない範囲で手を抜いて構わないと思います。もちろん余裕があればしっかり勉強するということでよいと思いますが、ロースクールよりも司法試験対策を優先させる気持ちでよいでしょう。

「司法試験の勉強もロースクールの授業も完璧にやらないと」というプレッシャーを感じる必要はまったくありません。ロースクールとは、卒業に支障がない範囲で「お付き合いする」、そういう考え方でいるとよいと思います。



自己肯定力や達成感を得る上ではロースクールの授業を利用してもよい


とはいえ、ロースクールでの勉強をがんばることが受験生にとってまったく意味がないかというともちろんそんなことはありません。

当然ながら司法試験の出題科目に関する授業であればしっかり勉強すれば当然合格にとってプラスになります。

それに加えてロースクールの授業をしっかり受けることには副次的な、しかし見過ごせないメリットがあると私は考えています。それは受験生の自己肯定力や達成感という側面でのメリットです。

司法試験の勉強を含め、法律の勉強というのは結構独特です。論理的な正しさというよりは「最高裁がこういう判断を出しているから」とか、「〇〇大学の△△先生が唱えている説だから」という権威によって評価されるかどうかが決まるような世界です。

そういう世界は権威の上のほうにいる人間にとってはとてもやりやすいし、気持ちよい気分になれると思いますが下のほうにいる位置付けられてしまっている人にとってはかなり精神的な苦しさがあります。自分の独創性や価値観ではなく権威に従っているかどうかで評価されるかどうかが決まる。非常に窮屈です。

それと、これは司法試験を作ったり採点したりしている試験委員の先生方が書いた採点実感などを読んでいて強く感じるのですが、減点方式の物の見方をする人が非常に多い世界ですよね。

「この問題では〇〇の点を書く必要がこの出題の趣旨を理解して的確に答案に表現できている答案はほとんど見受けられなかった」

終始こんな調子のことばかりが書いてあります。それは、試験を作ったあなたにとっては書いて当然のことかもしれないけど、今まで何年も勉強してきて1年に1回のチャンスで緊張しながら試験当日はじめて読んだその問題に対してそんな完璧な答案が書けるわけないのでは?

法律を専門的に勉強している人の傾向として、一定の価値観に沿って物事をジャッジするのは得意な人が多いですが、相手の立場に立って考えたり、完全ではなくても見どころのある考え方を受け入れたりすることには非常に無頓着な人が多い印象です。

そういう世界の中で受験生という「まだ何者でもない存在」でいるのは非常に苦しいことだと思います。日々、「君はここができていない」と周りから評価され続けるわけですから。

そういう世界で長期間の勉強をしていく上で自己肯定力や達成感というものは非常に大きな意味を持っています。

ロースクールの授業をそれなりにしっかりがんばって中間や期末のテストで良い成績を取ることができればそれは自信になります。あるいはしっかり予習をして授業に臨んで発言をしてそれを先生に褒められる。これも小さなことですが自信になるでしょう。

法律を勉強する上で「自信を持てる」というのは実は非常に貴重なチャンスです。私もそうでしたが法律を勉強していて誰かから褒められることってあまりないですからね。

ロースクールの授業をこうした自信獲得の機会と位置付けてがんばるというのはかなり大きな意義があることだと思います。何年も続くかもしれない勉強を途中でやめないためにそのような自信や達成感を得た経験が重要になってくることもあります。

基本姿勢は「ほどほどに付き合う」で大丈夫ですが、余裕のある人はロースクールの授業をがんばってみるとそれはそれで良い面があります。このあたりは勉強に割ける時間がどのくらいあるかによっても変わってくるのでご自身で考えてみて方針を決めていただきたい部分です。



合格後を考えてロースクールと向き合う



最後に、司法試験に受かった後のことも考えてみましょう。

合格前にこのようなことを考えるのは「捕らぬ狸の皮算用」みたいですが、現在の自分の身の振り方を考える上で未来のことを考えてみるのは役に立つときもあります。

弁護士志望の方の場合、将来自分が関わりたい分野の法律科目をロースクール時代に勉強しておくのはメリットがあります。

これは選択科目を選ぶときにも同じ考え方ができますが、たとえば、将来的に国際分野で活躍したいと考えている人の場合、企業法務系であれば国際私法、国際機関志望であれば国際公法などの科目を取っておくと就活時にアピールに使えます。

企業法務系の弁護士であれば労働法、知財法、経済法(独禁法)なんかをしっかり勉強しておくと就活のときのアピール要素の一つになるでしょう。実際、私も就活のときに北海道大学の道幸哲也教授の授業を取っていたという話をしたところ、労働法分野に強い事務所だったのでなかなか好印象を持ってもらえたということがありました。司法試験の選択科目は知財でしたが労働法の授業も取っていたのが意外なところで役立った経験です。

それからたとえば将来、海外の大学やロースクールへの留学を考えている人の場合、取る科目もそうですが成績にも注意をしておいたほうがよいです。というのは海外の有名大学では受験資格の段階で直近に卒業した大学や大学院の成績で足切りをするところがあるからです。

科目ごとの成績の平均値はGPA(Grade Point Average)と呼ばれ、たとえばこれが4.5以上ないとそもそも受けられない大学というものもあります。足切りはなくても入学を認めるかどうかの部分で海外の大学はわりとこのGPAを重視する傾向があると思います。

そのため、ロースクールの成績が落第スレスレだったりすると、卒業・合格後に「留学もしてみたいな」となったときに苦労する可能性があります。そのため将来的にそういう選択肢も考えている人はロースクールの授業はある程度がんばっておいたほうがよいです。

他方、日本の法律事務所の就活だけを見ると、これは私の印象論ですがロースクール時代の成績はそれほど重視されていないと思います。もちろん大手の渉外事務所を目指しているような方の場合はがんばったほうがよいと思いますが、そうしたケース以外であれば専攻していた法律分野や人柄などのほうが就活の際に重視されている印象です。



まとめ



この記事ではロースクール生の方向けにロースクールの授業と司法試験の勉強、どうバランスを取って向き合ったらよいかを解説しました。

基本方針としては「卒業に支障がレベルでほどほどに付き合う」でよいですが、あえてしっかり授業を受けることにも自己肯定力を高めるなどのメリットがあるため、このあたりは受験生の方の事情に合わせて考えていただきたい部分です。

ロースクールの授業は受験生にとって負担になる部分も多いですが、完璧にこなそうとするのではなく自分にとってのメリットをふまえて上手に付き合えるとよいと思います。





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長崎で中小企業・個人事業主を主なクライアントとする法律事務所を開設している弁護士です。 東京で3年超、企業法務を扱う法律事務所でアソシエイト(勤務)弁護士として働いた後、外務省のJPO(Junior Professional Officer)制度で推薦を受けて国連の専門機関である国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日事務所で2年間、法務担当の国際スタッフとして勤務しました。 その後、長崎で中小企業法務を扱う「長崎国際法律事務所」を開設しました。現在は中小企業向けの経営相談機関である「長崎県よろず支援拠点」の相談担当コーディネーターとしても稼働し、毎月多くの経営者からのビジネスに関する法律相談を担当しています。 知的財産(知財)に関する法律を専門としており、「長崎県知財総合支援窓口」にも専門家として登録して地元企業の特許、意匠、商標、著作権、営業秘密などに関する相談に対応しています。知的財産教育協会の認定する知的財産アナリスト(特許)の認定も受けています。 ■ 資格 弁護士資格有・登録済み(長崎県弁護士会所属) IELTSスコア7.5 知的財産アナリスト(特許) ■ 著作 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための法律の教科書」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための弁護士の上手な『使い方』」 「弁護士が教える中小企業・個人事業主のための裁判の教科書」

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